
量子ってなに?
先月、某技術カンファレンスで量子コンピューティングの話を耳にして、正直まったく理解できなかったので家に帰ってから調べ始めてみました。直近の仕事で活用する事もあまりないと軽く見てみるつもりでしたが、思いの他おもしろい情報がたくさん出てきましたので、まとめてみました。
私の様にITエンジニアとして働いていると身近なものではなく、研究段階の状態で、関係のない話だと思われる方も多くいると思います。確かに直近すぐに何か起きることはないと思います。しかし、昨今のAIの躍動を思い出してほしいです。ニューラルネットワークやディープラーニングが騒がれてから実際に私たちの手元に届いて活用するまでにどのくらいの時間を要したでしょうか?こういった技術革新のスピードが速まってきている中でどれだけ多くの情報に触れてきているかが今後のキャリアを左右していきます。関係のない話かと思われがちですが、今後量子コンピューティングを活用していく日もそう遠くないと私は思います。量子コンピューティング初心者であった私がわかりやすく解説していきますので、最後まで一読していってください。
なぜ今、量子コンピュータが注目されているのか?
正直なところ、すぐに仕事で使うわけでもないので軽く調べてみるつもりでした。でも調べてみると、GoogleやIBM、AWS、Microsoftといった大手企業が本気で投資していることが分かり驚きました。特にIBMが2024年に1,121キュービット(量子ビットの単位)のプロセッサを発表したというニュースや、AWSが「Ocelot」という量子コンピューティングチップを発表したりと、これは思ったよりも身近なものになってきていると思い始めました。
量子コンピューティングは暗号解読や創薬、複雑な最適化問題など、現在のコンピュータでは何年かかっても解けない問題を解ける可能性があり、現在研究がかなり進められているようです。
量子コンピューティングとは?(超素人向け解説)
初めて量子コンピュータについて調べたとき、「重ね合わせ」や「量子もつれ」という言葉が出てきて、頭が痛くなりました。
私なりの超シンプルな理解はこうです。通常のコンピュータが「0か1か」のビットで計算するのに対して、量子コンピュータは「0と1の両方の状態を同時に持つことができる」量子ビット(キュービット)を使います。

例えば、4桁の暗証番号(0000〜9999)を総当たりで解こうとすると、普通のコンピュータは最大10000回試す必要があります。でも理論上、量子コンピュータはすべての組み合わせを「同時に」試せるということです。
迷路を解くという例えで言うと、普通のコンピュータは道を一本ずつ試していくけど、量子コンピュータは全ての道を同時に試せる…ようなものです。
量子コンピュータと従来型コンピュータの違い(自分用メモ)
従来のコンピュータと量子コンピュータの違いに関しては以下の様な違いがあります。
比較項目 | 従来型コンピュータ | 量子コンピュータ |
---|---|---|
情報の単位 | ビット(0または1) | 量子ビット(0と1の重ね合わせ) |
計算方式 | 順次処理(一つずつ計算) | 並列処理とも違う特殊な処理(すべての可能性を同時に) |
動作環境 | オフィスの机の上でOK | マイナス273度に近い極低温が必要なものが多い |
得意分野 | 普段の業務や計算全般 | 暗号解読、めちゃくちゃ複雑な最適化問題 |
実用性 | 今使ってる | 研究段階(一部でクラウド利用可能だけど制限あり) |
量子ビット(キュービット)って実際どういうもの?
正直、ここが一番理解するのに苦労した部分です。
キュービットが「重ね合わせ」状態にあるというのは、コインを空中に投げて回転している状態に似ていると言われます。その瞬間、コインは表でも裏でもなく、両方の可能性を持っています。でも、キャッチしたら(=測定したら)、必ず表か裏のどちらかになります。
量子の世界では「確率」とは違う「振幅」という概念があるらしいです。
でも、実際にキュービットをプログラミングするには、詳細な理解よりも、提供されているAPIやフレームワークの使い方を知ることの方が大切だという話もあります。AI普及の時も同じでしたね。
量子コンピュータの種類(メーカーによる違い)
実は量子コンピュータには複数の方式があって、今はどれが主流になるか競争している状態の様です。それぞれ全然違う技術を使っていて、例えるなら初期のコンピュータ時代に真空管派と半導体派がいたみたいな状況に似ています。
冷やした金属の中で電子を動かす方式。GoogleとIBMが採用しており、マイナス273度近い極低温が必要で、冷却装置がものすごく大きい。
空中に浮かぶイオンを使う方式。
光の粒子を使う方式。
今のCPUとかと同じシリコン技術の延長線上にあるので、将来的に量産できる可能性があるらしいです。インテルとかがこっちを推してるとの噂も・・・
量子コンピューティングの現時点(2024年時点)
最近ニュースでよく目にしていたので、進んでるように感じたのですが、実際のところはまだまだ研究段階で、ちょっと前のディープラーニングブームの初期段階くらいの位置づけかなという気がします。
主要企業の量子コンピュータ開発状況(2024年10月時点)
企業 | 現状 | 将来計画 | 個人的感想 |
---|---|---|---|
IBM | 1,121キュービットのプロセッサを発表 | 2025年に4,158キュービット目標 | クラウドで実際に試せるのが良い。API使いやすい |
量子優位性を実証(特定計算で従来の1000倍速度) | エラー訂正の研究に注力中 | すごいけどアクセスしにくい。情報も少なめ | |
AWS | Amazon Braketというサービスを提供中 | パートナー企業の量子コンピュータへのアクセス拡大 | さすがAWS、UI/UXが洗練されてる |
Microsoft | トポロジカル量子ビットの実証に成功 | Azureで量子サービス提供予定 | まだ実験段階だけど将来性はありそう |
キュービット数の多さだけで評価されるわけではなく、質も重要で、ノイズ(エラー)にどれだけ強いかという点が影響してくるようです。
ちなみに、上記では海外の大手企業ばかりでしたが、日本でも理研や東大が量子コンピューティングの研究をしているそうです。
量子コンピュータは何に使えるの?(実用例)
量子コンピュータは特に以下の分野が有望だと言われており、私たちの生活や仕事での活躍が期待されています。
暗号解読と暗号技術:RSA暗号や楕円曲線暗号などの、今のセキュリティの基盤となってる暗号が量子コンピュータで破られる可能性があるらしいです。そのため「耐量子コンピュータ暗号」の開発も始まっており、セキュリティエンジニアでの活用が見込まれます。
創薬・材料開発:分子シミュレーションが得意であり、製薬会社などでの活用が見込まれます。
最適化問題:配送ルート最適化、工場のスケジューリング、株式ポートフォリオの最適化など、最適化問題の解決に一役買ってくれるかもしれません。
機械学習:「量子機械学習」という言葉は聞きますが、従来の機械学習と比べて具体的に何が良くなるのかはまだ不明瞭な気がします。回答精度が良くなるなどですかね・・・
気象・気候シミュレーション:複雑系のシミュレーションも得意分野なので、気象庁やNASAなど興味を持っているようです。
企業での活用事例(あんまりまだない)
研究段階のためか、現時点で活用している企業は少なかったです。
JPモルガン:金融リスク計算での活用を行っています。
Airbus:航空機設計における流体力学のシミュレーションでの活用を行っています。
BMW:車の設計や製造ラインの最適化で活用しています。
正直なところ、完全な実用レベルの事例はありませんでした。現在は「ハイブリッドアプローチ」といって、通常のコンピュータと量子コンピュータを組み合わせて使うのが現実的ということでしょう。
エンジニアとしてどう向き合えばいいの?
こんな影響があるかも?
セキュリティエンジニア:現在の暗号がほぼ無力化される可能性があるので、「量子耐性のある暗号」への移行プロジェクトが発生するはずです。
バックエンドエンジニア:量子APIを呼び出すサービスの開発が増えそうです。既にIBMやAmazonではAPIは提供されています。
機械学習エンジニア:「量子機械学習」という分野が出てきてて、量子回路を使った新しい学習モデルが進められています。
クラウドエンジニア:量子コンピューティングは、ほぼ確実にクラウドサービスとして提供されるので、インフラ設計とかが重要になりそうです。
まとめ:普通のエンジニアとしての所感
量子コンピュータの「実用的な段階」と「革命的な段階」には、まだ時間差があるように思います。「実用的な段階」はもう始まっていて、クラウドサービスとして部分的に使えるようになっています。しかし、「革命的な段階」、つまり暗号が破られたり、医薬品開発が劇的に変わったりするには、まだ5年以上かかりそうです。
結局のところ、エンジニアとして生き残るには、常に新しい技術をキャッチアップし続ける必要があります。量子コンピューティングも、そのひとつに過ぎません。でも、これが本当に大きなパラダイムシフトになるなら、早めに学んでおいて損はなさそうです。
この記事が、同じように「量子コンピューティングって何?」と思っている人の参考になれば嬉しいです。もし質問があれば、私も勉強中の身ですが、わかる範囲でお答えします。一緒に学んでいきましょう!
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